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 見送りは断られたので、紙袋を下げて部署に戻る。この菓子で杉田の機嫌を取り、紀谷との打ち合わせを二度と俺に回さないよう頼めばいい。それですべて上手くいく。  しかし、俺のそんな期待は席に戻る前に打ち砕かれた。  杉田は立ったまま電話に出ている。表情が険しい彼の隣には、おろおろと落ち着かない様子の笹川。何かやらかしたらしい。  言い出せるわけがない。ため息を吐いた拍子に、紙袋に記された有名菓子店のロゴが目に入る。  考えてみれば、紀谷との打ち合わせにはもう出ないと宣言したところで、一切の心配が消えてなくなるわけではない。そうしたところで、次はきっと、紀谷が杉田にあの夜のことを話したのではないかと不安になる。自分の性格くらいよく分かっている。  根本から解決するべきだ。そうしなければいつまでもびくびくしていなければならない。  もう一度ウィッグとカラコンを着け、名波ではない完全な別人として会いに行けばいい。恨まれないよう、下手に望みを抱かせないよう毅然と断り、そして忘れよう。それがいい。それで解放される。  とりあえずの解決策を思いついた俺は、久しぶりに軽い気分になった。  紀谷に断りに行くためには、岩崎にメイクしてもらわなければならない。問題は岩崎にどう説明するかだ。     
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