17/30
前へ
/249ページ
次へ
 悩むうちに面倒になり、いっそ真実を話してしまおうかとも考えた。が、岩崎は一介の真面目な会社員たる俺に女装させ、ああいう場に引っ張り出すことに負い目を感じている節がある。その場では無表情に、殴るなり逃げるなりすればよかっただろ、と一言言うだけに違いないが、今後二度と俺をああいう場に連れて行くことはないだろう。俺にとってあのパーティは息抜きの場として結構楽しいものだったと伝えたところで、彼は後悔し続ける。律儀というか、責任を感じすぎる性格なのだ。  しかしパーティと同じメイクをして欲しいと切り出した俺に、岩崎はあっさり頷いた。 「モデルの話だろ? マミがおまえなら完璧だろうにってしきりに言ってた。伽羅さんに会えたんだな」 「モデル……あ、そうだけど……、というか」 「本決まりではないって?」 「あ、うん、多分……」 「伽羅さんは話題性もあるし、今回はクリーンな仕事ってことでやってみたい奴も多そうだ。しかし名波まで落とされるとはな」 「お……とされてはない。やっぱり断りに行こうと思って……。というか、話題性って?」 「多分高校生なんかも知ってるんじゃないか。結構有名。俺が知ってるのは単に店が近所だからだけど」 「クリーンっていうのは? やっぱりやめておいた方がいいのか?」 「いや、長く商売やってる人だし、信用もある。イメージの話だ。……おまえはあんまそういうのにいい顔しなさそうだから、俺から話すのはちょっと」  岩崎が隠そうとしているのは、紀谷がアダルトショップを経営しているという点のようだ。そういえばあの夜の紀谷も、名刺はくれたが生業は明かさなかった。     
/249ページ

最初のコメントを投稿しよう!

696人が本棚に入れています
本棚に追加