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「なんであんなに夢中なんだ、おまえに」 「俺じゃなくて、頭の中で誰かを作ってるんだと思う」 「だからおまえだろ。今からでも断ったらどうだ」  深々と嘆息した岩崎は、腕を組んで面倒くさそうな顔をした。  明るい時間に紀谷と会うことになるので、素顔がばれないように濃くメイクしてもらってからキャラメルボックスに出向いたのだが、紀谷には前のメイクがいいと言われてしまい、また岩崎のサロンに戻ってくる羽目になった。  岩崎に連絡を入れたのは紀谷だ。彼は当然俺と岩崎が知り合いだとは知らず、腕のいい美容師で色んな面で頼りになると評判だ、と褒めていたのだが、そのくらいのことでは岩崎の機嫌を取れそうにない。 「……まあたった四回だし」 「普段と逆をやれって教えたよな。やってもいいかと思ったなら、絶対無理だって言えよ。そんなだから会社でも何でもかんでも押しつけられて、後でグチグチ言う羽目になる」 「会社は関係」  ないだろ、と言おうとしてふと口をつぐんだ。  岩崎がじろりと目を向けてくる。  これから毎週岩崎にメイクしてもらわなければならない。岩崎が元から紀谷と顔見知りであることも考えると、事情は明かしておくべきだろう。 「言わなくていい」     
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