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「申し訳ありません。杉田がちょっと急用で出てしまいまして。コンセプトにもう少し時間を掛けたいということでしたね」
「まだコンセプトも決まってないから、暇な奴にたらい回しにしても構わないってことなのか?」
「とんでもありません。杉田にはよく言って聞かせます」
誰よりも忙しい俺に何を言ってるんだとか、たらい回しにすることでこっちに何の得があるんだとか、言いたいことは色々あったが、主張しても仕方がない。うちの会社に対して不信感があるということなのだろう。
杉田の資料には、キャラメルボックス、紀谷(きや)和孝とある。無精ひげのせいで年がいっているように見えるが、率直に不満を表明するあたり、恐らく三十を過ぎたあたりか。
いいものを作る自信も、意気込みもあるのだろう。だからこそコンセプト段階で時間を掛けようとする。残念ながらこの案件はそこまで期待されているわけではなく、広告費の割り当てもないに等しい。
「えーと、ルームウェアですね。働く女性の癒しをコンセプトにするということで決まりかけていたが、伽羅さんが再検討したいと。私ももう少し差別化がほしいかな、という気はします」
「紀谷でいい。……ぶっちゃけ、働く女性の癒しなんてコンセプト、ありふれてるだろ?」
「ありふれてますね」
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