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「ケイ。よかったら来週は夕食を一緒にどうかな。普段の格好でも構わないし、外が嫌ならデリバリーでもいいから」
「ひとりで食べるのがさびしい?」
「さびしいよ。君は?」
「ひとりのほうが気が楽」
「俺も家族がいた頃はそう思ってたんだけどね」
強面が自嘲めいた笑い方をする。誰も待っていない自宅に戻りたくない日もあるのだろう。
ここでやさしいことを言ってやれば、俺は今夜気分よく寝られる。先日の会社での失言も、今日の失態も帳消しになるだろう。何より紀谷も喜んでくれる。
けれど俺はそうしなかった。
ここは気を抜いていい場所ではない。俺ももうやさしくはしないから、紀谷も俺にやさしくするべきではない。
強面は強面のままでよかったのだ。俺が苦手な種類の人間のままで。
「食事は遠慮しとく。また来週」
「そうか。今日もありがとう、気をつけて」
見慣れてしまったシャイな笑顔に、胸のどこかが痛んだ気がした。
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