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同一人物だとも知らずに、ケイにだけは本性を隠せているつもりでいるのだろう。ばかばかしい。滑稽だ。大体どういうつもりなんだ、ケイには下心があるからやさしくするのか?
どうしてあいつがいいんだ? 失礼な口の利き方をして、サンドイッチも作れなくて、実はずぼらで、何かにつけて嫌だと言い切るあいつの、いったいどこが? 俺のほうが頑張っているじゃないか、紀谷もそのことを知っているはずじゃないか。
──これではまるでケイに嫉妬しているようだと気づき、笑ってしまいそうになった。
滑稽なのは俺だ。彼に聞こえないよう静かに息を吐き、立ち上がる。
「お知らせできるのは来週になります。お疲れのようですから、ゆっくり休まれてください」
「じゃあまた」
短い挨拶だけを残して紀谷は出て行く。足音が遠ざかるのを待てずに俺は再び嘆息し、椅子に腰を下ろした。
フェーズが変われば、俺の出番も減る。紀谷は慣れていないようだから、また以前のように頻繁にアドバイスを求めにやってくるかもしれないが、少し会う時間を減らさなければならない。こんなことでは互いの精神衛生上よくない。
手帳のページは十一月に突入した。そういえば最近は紀谷がジャケットを着ている。まだケイとして会う約束が残っているから、一ヶ月は経っていない。
一月も上手くやれないのか、と情けない気分になる。
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