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 確か、紀谷が数年前に手がけたグッズがネットで話題になったと杉田が言っていた。紀谷に今回のルームウェアの企画を持ちかけたのは杉田だ。 「紀谷さん、紙袋は大丈夫でしたか」 「あー……まあ大したもんじゃ」  紀谷が袋から出した箱にも飛沫が飛んでしまったようだ。彼が汚れたハンカチで拭こうとするので横から拭いてやると、どうも、と首を竦められた。 「これ、よそでの仕事」 「パッケージも手がけてらっしゃるんですか」  見せられた箱には、水彩画のタッチで大輪の赤い花が重なって描かれている。アネモネなのか椿なのか俺には分からないが、パールホワイトの地にダークな赤と黒が滲み、高級感もありつつそこはかとなくエロティックなデザインだった。 「男の私でも、これには目が留まります。思わず手に取りたくなります。なるほど、自慢になるような、というのは紀谷さんの中で一貫したテーマなんですね」 「いや……、そんなこと言ってもらうほどのものじゃない。たかがパッケージだ」 「でもこのパッケージのおかげで、すごく特別なものに感じられますよ。化粧品ですか? シリーズで揃えたら見栄えがするでしょうね」  紀谷が無言になってしまったので目を上げると、彼は十センチほど上から俺を見下ろしてきていた。視線が合うなり、ひょいと肩を竦められる。     
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