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「でも名波さんって、あっちでは課長だか主任だかの待遇だったんでしょ。出戻りの上にまたヒラになっちゃうなんてねえ」  部屋の中から聞こえてきた声に、IDをカードリーダーに通そうとしていた手を止めた。  IDのみならず課名の表示も廃止になってしばらく経つが、扉の近くで大声で話さないことを周知したほうがよほどセキュリティ対策になるのではないかと思う。  もっとも、今彼女たちが話しているのは機密ではなく、俺の悪口に過ぎないが。 「課長として戻したら、名波さんに査定されることになるんじゃない? 気軽に何でも頼めなくなっちゃうじゃん」 「名波さんっていつも愛想笑いはしてるけど、やさしいのとは違うよね。課長になったら、誰のことも高く評価しなさそう」 「自分が一番優秀だと思ってるよねー」 「まあ一番真面目なのは確かでしょ」 「社長とか取締役とかに見合い話持ち込まれて、そこそこ美人でおとなしい人と結婚して、気乗りしなかったけどまあ結婚もいいものだな、って思い始めた頃に、奥さんの浮気が発覚するタイプ」  女性たちは手を叩いて大笑いしている。     
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