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 ケイを見ていると、紀谷には色々なイメージが思い浮かぶのだという。どんな部屋で暮らしているのか、どんな家具が好きか、どんな本を読むか、どんな店に通っているか。  残念ながら俺は家には寝に帰るだけで、大学入学時に買った家具をそのまま使っているし、本は置き場に困るから買わなくなった。通っている店は間違いなく近所のコンビニだ。  ケイという人間は実在しないのだから好きに想像してくれて構わないが、本当にルームウェアの仕事に結びつくのか怪しいところだ。俺は単にナンパされただけなのかもしれない。  鏡越しに俺を眺める岩崎も、まったく同じことを言いたげにしている。  その背後の荷物置き場を兼ねたソファには、くつろいで座る紀谷。膝の上には手帳があり、ペンを走らせている。岩崎が仕事を始めないことに気づいてもいない。  岩崎がぐるりと首を回した。 「……紀谷さん。一時間くらい時間潰してきてもらえますか」 「ああ、悪い。いたら駄目かな?」 「本人が名前を聞かれたくないそうなんで」 「そうか、失礼した。じゃあ一時間後に」  紀谷はばたばたと出て行く。斜め向かいに喫茶店が、と岩崎が声を掛けたが、聞こえていない様子だった。     
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