そして、少年はトラキチと夢をみる。

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孤立を深めていった若者は他人とのコミュニケーションを拒絶し、部屋に閉じこもるといったことも少なくなかった。 さらに、国家間の熾烈な競争が結果として互いの国家を認めない状態に陥り、一部の国や企業のみに富が集中し、国家間の富の格差も急激に広がった。 教育格差により道を外れたもの、人権や人種で差別を受けたものたちが過激な行動を起こすことも頻発していた。 戦争状態一歩手前までいった国家間も少なくなかった。 後に『データクライシス』と呼ばれるようになった事件に代表されるように、AIを取り巻く負の遺産は、人々の記憶と記録に忌々しく刻んでいった。 「AIはヒトを幸せにするものではなかったのか。これでは、以前のほうがましだ」 人々は悪意に疲れ果てていた。 そのような、社会情勢の閉塞感の中、奏上アキラが提言した第5世代学習型人工知能「アイダ」と可変型ガジェットクローン「クレイ」は異彩を放っていた。 A.I.Cは、AIと人との関わりに変革をもたらすために構築された一連のプロジェクトを指し示すものであった。 既存のAIの機能を遥かに凌駕していた『アイダ』は意思疎通について従来では考えられない程の柔軟性を有していた。 「ヒトと完全にコミュニケーションがとれる」と呼ばれるまでに至った「アイダ」は、ヒトの言動を理解し行動した。     
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