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私の手にはあの本が握られたままだった。
私は深呼吸した。そして想い出に閉じ込められていた本を自室に連れて行った。そのまま学校鞄を開き、台本を乱暴に広げて、私は殴りつけるかのようにペンを走らせ続けた。
謎は解けた。結局一周回っても母は幼くて、私への愛を拗らせて振り回して馬鹿みたいな話だ。母は己の失敗の反動から逆張りするような現実お嬢様路線を走らせようとした。父はロマンチストだから、きちんと言葉にしないまま呆気なく逝ってしまった。そんな両親に振り回されて、なにか素敵な二人の愛の秘密があると信じたばかりに、只々馬鹿みたいにあちこち駆けずり回って、ここに帰ってきた。こんな馬鹿な話があるか。
あんなオチとは思っていなかった。私のペンは怒り狂っていた。拍子抜けするようなエンドロールを愛情で補正させようとしやがって。
先程の、感傷に浸りそうであった己を抑え込むような、無理矢理湧かした殺意とは違う。この正真正銘の両親への怒りを、積年の恨みとも思わしき感情を、十八年間同じ屋根の下で暮らしていたのにも関わらず交わすことのなかった言葉を、今の私が信じている未来を、全てこの脚本にぶつけてやる。
ペンは止まることなく走り続けた。
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