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彼が彼女と再会したのは用水路と車道の間、無機質なコンクリートの歩道に彩りを与えている、桜並木の下だった。
季節外れの雪。学校は休みで何もすることがない。暇ならと母に買物をしに行かされていることも相まって彼の胸中を暗澹とした感情が疼く。
彼はパーカーのポケットに手を突っ込みうつむき気味に歩いていた。粉雪が桜の花びらに混ざり合い、水面をわずかに揺るがしている。
突然、彼が歩みを止めた。目の前の雪が途切れ、花びらが舞っていない。
ーどういうことだ。
顔を上げると、そこに彼女がいた。
純白の、否、雪と一体化しそうなほど白い肌をした高校生くらいの少女だ。濃紫がかかった黒髪と、桜色の目。水を凝縮したような深藍のコートは彼女がこの世ならざる者であるような感覚を抱かせる。少女が手に持つ、デジタルカメラが妙に印象的だった。
ー急に止まったのを不審に思ったのだろうか。
こちらを少女の双眼が貫く。目が合った。
ー無垢だ。
彼女の目に見受けられるのは目の前の存在に対しての純粋な好奇心。
淡桃の唇が開いた。
「あなた、なんで私を見てるの?」
彼女の澄んだ声が路上に響く。彼にとってはよほど残念な言葉だったのか、彼はまた俯いた。
「俺の事、覚えてないのか...まあ、そりゃそうか」
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