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擦り減って逝く満員電車
「さぁて、今日の獲物はどいつにしようかしら」
立っていても足が浮いてしまう様な朝の満員電車の中、私はふと微笑みながらそんなことを口にする。
大丈夫。周りの乗客には聞かれていない。だって、都会の人間は誰も、他人になんて興味を持っていないもの。
寧ろ皆、耳にはイヤホン、口元にはマスク、目線は常にスマホに向けて、積極的に外界との繋がりをシャットダウンしている位だ。
朝から面倒くさいこと、厄介なことに関わり合いにならない為に。
だからこそ満員電車では、隣に座っているのが指名手配中の殺人鬼だろうが、或いは有名な俳優であろうが、決して誰にも分かりはしないのだが。
私はそんなことを考えながら、口元に笑みを滲ませる。
もしも誰かが私の笑みに気付いたとて、座れた者の余裕、位にしか思わないだろう。少々イラっとさせるのが関の山だ。
どちらにしても、私が上機嫌である理由に深く踏み込んではこない。
「まぁ、だからこそ私は楽しめるんだけどね」
朝のこの時間は、しがないOLである私の唯一のお楽しみでありストレス発散の貴重な時間。この時でしか、私の求める楽しみは得られないのだから。
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