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私は昏い愉悦に目を細めながら、ひたすら獲物が罠にかかるのを待つ。
それから2分位しただろうか。私の乗っている電車が大きなターミナル駅に停車する。
同時に、滝の様に吐き出されていく無数の人、人、人。私のいる車両には通路にも座席にも大きな空白が生まれた。
しかし、その空白を埋める様に、今度は先程吐き出されたのよりも沢山の人の波が電車に乗車してくる。
一瞬空いた私の隣の座席にも、直ぐに人が腰かけてきた。よれた灰色の背広にくたびれた革靴、抱えている大きなビジネスバッグは所々にほつれが出来ており、相当年季が入っていることを窺わせた。その見た目はまさに、標準的且つ代表的なサラリーマンだ。
私の獲物としては、申し分ない。
「ふふっ。獲物くん、いらっしゃい」
私はサラリーマンの様子を横目で見ながら、小さく舌なめずりをする。幸い、サラリーマンは乗車して直ぐにスマホを取り出すと、イヤホンをつけ、動画の閲覧に熱中しだした。
これは私にとっては実に好都合だ。
私は男性にわざとだと気づかれぬ様、偶然を装い、彼に接している方の肘で彼の肘を軽く押してみる。
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