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「あなたの余命、あと100文字よ、猫屋敷君」
「ひゃ、100文字……。えっ、ホントですか!」
ファインダーから視線を戻した虎谷は、後輩の猫屋敷に追い打ちをかける。
「ええ、今見えたの。このファインダーからね。言ってなかったかしら?このカメラはね、人の余命が分かるの」
「余命…?」
「待って! それ以上しゃべらないほうが良いわよ。今の“余命…”で、あと82文字ってところかしら」
慌てて両手で口をふさぐ猫屋敷。
「ほらカメラって、昔から“魂を吸い取る”って言われてきたでしょ? そういう力がこのカメラにも宿っているの。ファインダーで覗くとね、見えるのよ、その人の余命が……」
微動だにしなくなり、真剣な眼差しだけをぶつけてくる猫屋敷に、虎谷は続ける。
「カメラ自体には元々そんな力は無かった。そう、その力を持っていたのは私……。長く使っていたから移ったみたい。でもごめんなさい、余命ギリギリにならないと力が発動しなくて……」
猫屋敷はうつむき、体を震わせている。その様子を見た虎谷は、口元を押さえながら猫屋敷に背を向け、肩を震わせ始めた。
(ちょろい、ちょろすぎるわ、ネコくん。私の暇つぶしに付き合ってもらおうと思っていたのだけれど、君のリアクション、想像以上よ!もう、ホントかわいいなぁ)
同じ高校に通う2年生の虎谷と1年生の猫屋敷は、写真部に在籍している。入学したてで右も左も分からない猫屋敷を、鬼アタックで射止めたのが虎谷だった。
猫屋敷は純朴で素直。大人しさから醸し出される弟的な雰囲気は、年上の女子を虜にする才能と言えた。
虎谷は猫屋敷とは真反対。考えるよりも先に手が出るという怖いもの知らずな性格は、異性はもちろん、同性からの人気も勝ち取っていた。一方でかわいいものに目がなく、猫屋敷もまたその対象だった。
そんな正反対の性格が功を奏したのか、二人の相性はよく、足りないところを補い合う良きコンビに発展していた。
今回もまた、いつもと変わらない楽しい雑談になると虎谷は考えていたのだが、その思惑とは裏腹に、運命の輪は思わぬ方向へと回り始める……。
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