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「……好きです。先輩……」
虎谷は耳を疑い、すぐに振り向いた。そこには、顔を真赤にして、今にも泣き出しそうな猫屋敷の姿があった。
「えっ……?」
「一目惚れ、でした……」
「あっ、あの…ちょっと」
「大好きでした……。最後に、聞かせてください。先輩の気持ち……」
猫屋敷の表情は真剣そのものだったが、その瞳の奥には、別の思いが存在していた。
(ちょろい、ちょろいですよ先輩。余命100文字だなんて小学生でも信じませんて。やっぱり乙女だなぁ、先輩は。までも、そういうところがいいんだよなぁ)
猫屋敷のしたたかな反撃に、虎谷の思考回路は熱暴走寸前。
(え、ウソ、信じちゃった? 好きって…。やだホントに? やっ、てかあたしなんでこんなに動揺してるの? 確かにネコくんはかわいいよ。でもそれは後輩としてのかわいさであって。や、でも実は顔きれいだしシュッとしてるしあたしなんかより頭も良くて……)
形勢逆転の猫屋敷は、ここぞとばかりに追い打ちをかける。
「先輩、僕はもう、長くありません。お気持ち、聞かせてください」
「う、うん……。えっと、あはは、びっくりしちゃって……」
虎谷は体を左右に揺らしながら、言葉を探す。余命は“100文字”なので、言葉を発しなければいくらでも時間はあるのだが、虎谷からそんな冷静さはすっ飛んでいた。
猫屋敷はそのいじらしい様子が微笑ましくも、心の中に空いた穴の存在だけは、ひた隠していた。
(引退前に伝えられたことだけは、よかったか……。先輩は僕を後輩としてしか見ていないようだし、なんだかんだ言って人気もあるしな。さて、ほっとくのもかわいそうだから、そろそろ終わりに――)
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