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雪の積もらない街
深いため息をついた。
風景にではない。自分自身の酷さにだ。
綿に墨汁を垂らし染み込ませた様な雲が、空一面に敷き詰められている。そこに向かって、俺の口から弱々しい白煙が昇っていく。
流れる水の音が、悴む指先を暖めようと両手を擦る音と顔に当たる風の冷気にかき消されていた。吸い込んだ空気は冷蔵庫の中に有ったかのごとくで、肺の中に重みが与えられたのを感じる。
視線を空から下に向けると、河原の細道の先がぽっかりと口を開けた化け物がいるかのような闇に飲み込まれていた。その口の中に一歩また一歩と、ゆっくりと、しかし確実に進む。黒曜石のような魅力的なその黒に吸い込まれるように。
手持ちの懐中電灯が切れそうなのか、チカチカと点いては消えてを何度も繰り返す。それでも光に進む。
河川敷には、かなりの遠間隔で街灯が置かれていて、次の光を求めることだけを頭に残して進み続けた。
そうしなければ、考えないようにしていたことが浮かんできてしまう。忘れていられなくなる。
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