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秋彦について
市原秋彦が市立図書館に通うようになったのは自宅に居場所がないと感じたからだった。
逃避―ーおもに両親の目からの逃避だった。
彼がなぜ、逃避に至ったか。
それには、秋彦が現在、おかれた状況について少し説明が必要になる。
5浪――。
そう、秋彦は医学部を志し、5度挑戦し、5度夢破れていた。
すでに5年の歳月を受験勉強についやしていたのである。
終わりの見えないレース。
いつになったら、自分の努力は報われる?
秋彦は何度も自問する。しかし、答えは出るはずもなく。
決して時間の無駄ではない。この5年間が後の人生に何か意味を持つはずだ。
そう信じたかった。
しかし、答えの出ない日々は焦りとなって次第に秋彦の心を蝕んでいた。
医者になりたい。
そう志したのは、高校2年の頃だったか。
将来のことを漠然と考え始めていた秋彦にとって、人の命を救う、という道は素晴らしいもののように思えて仕方なかったのだ。
秋彦は彼なりに一生懸命、勉強した。
ぼろぼろになった問題集。
英語が苦手な秋彦は、単語帳が擦り切れるまで、持ち歩き熟読した。
しかし、結果にはつながらなかった。
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