0人が本棚に入れています
本棚に追加
虹の橋
その年の春――秋彦は無事、私立大学の医学部に合格することができた。
長年の努力が実を結んだことに、秋彦も彼の両親もとても喜んだ。
自分には永遠に合格できないんじゃないか。そう思えて仕方なく、遠い遠い場所にあると思われた合格。夢への一歩。
彼はついにそこへ到達することができたのである。
「お兄ちゃん。えらい、えらい。」
合格発表の翌日、市立図書館で秋彦はエリィと彼女のお母さんにお礼と報告を行った。
二人とも自分のことのように喜んでくれて、それが秋彦にはなんだか照れ臭かった。
エリィの小さな手が秋彦の側頭部をやさしく撫でる。
「エリィのおかげだよ。ありがとう。」
「あたちのおかげ?」
きょとんとするエリィに秋彦が頷く。
「僕にとってのね。虹の橋が見つかったんだ。」
そう。空にかかる虹の橋。
エリィとの触れ合いを通して、秋彦は自分の中に確かなモチベーションが戻ってきたのを感じたのである。
子どもたちの未来を守るために小児科医を目指したい。
それが彼の中に新たに芽生えた夢だった。
自分の中の母性をはっきりと認識することで、彼は医者になりたいというおぼろげな夢に確かな輪郭をなぞったのである。
「ねえ。おにいちゃん。
またご本読んでくれる?」
「あぁ、好きな本を持っておいで。」
そう答える彼の表情は晴れやかだった。
最初のコメントを投稿しよう!