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そこは、ただ一本の道が、多少曲がりくなりながら続く、何もない路地だった。
「本当に、この辺りに雉子の孫がいるのですか?」
「推理ですけどね。この本はね、面白いです。地味で小粒だけれど変化のある国や町。ストーリーがあるところもそうでないところも、探索したくなる。この『面白い』というのが重要です」
女は怪訝そうな顔をしている。
「しかし豊四季先生。ここはもう、クライマックスの途上ですよ。この後は展開の広がりもなく、一本道です。あと十ページも残っていません。こんなところにとどまっているでしょうか? もっと愉快な国へ戻ったり、あるいは最後まで読み終えてしまうものなのでは」
「ひとつ伺います。その女の子は、雉子さんを慕っていたのではありませんか?」
「ええ。いわゆるおばあさん子であったと思います」
「この本に現れる世界にはある共通点があります。それは、どれも室内か、あるいは庭先――恐らく雉子さんの生活範囲から着想されたものだと思われるところです。ミント。万年筆に暖炉。コーヒーに紅茶にパン。夕方の窓。きっと他の国々も」
「雉子は、あまり外出を好みませんでしたから」
「きっとこの本は、雉子さんを慕う者にとっては、彼女を近くに感じられるような感慨を与えるのでしょう。だから、読み終えたくない。しかし話は面白い。そうした本読みの多くがとる行動はね」
前方にぽつんと人影がある。
小学生の少女だ。間違いない。
「最後の最後、エンディングの手前で読むのを止めるのです。読み終えれば終ってしまう。物語を完了形にせず、まだこの世界に浸っていたい。そう願いながら」
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