一冊

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 ――山月記  宇宙の星たちを連想させるような、数多の本の背表紙に書かれた文字の羅列のなか、芽衣は見覚えのある言葉を見つけた。  芽衣が探していた現代小説や漫画とは違うが、これなら読める。というか、読んだことがある。あれは、高校生の頃であっただろうか。  懐かしさに本をとり、あらすじを読んでみる。しかし、内容を思い出せない。  タイトルに憶えがあっても、中身なんてそれほど憶えていないものだな、と芽衣は思った。当時ですら理解できなかったこの内容を、今まで記憶している方が珍しいだろう。  高校の頃といえば、自分は何に興味があっただろうか。あの頃は、ただ漫然と日々を過ごし、今振り返れば他愛のないことに一喜一憂していたと思う。辛い出来事も、思い出そうとすれば笑みがこぼれてしまいそうな、愛しく楽しい日々。  そういえば、一度だけ友と、喧嘩とは言いがたいが、大きな衝突をした経験が、芽衣にはあった。
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