祖父と僕

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僕は、祖父とどうしても手を繋いで帰りたくて、踏ん張って歩いて。前に進むそんな僕の一生懸命な頑張りを、ちょっと笑いを堪えたような様子で祖父が見つめている。 僕が生まれてから最初に覚えているのは、この大きく急な坂道だった。小学生になると、祖父の送り迎えも無くなり、少し寂しくなったようなそんな気がした。 祖父は正式に弁護士を引退、たまに後輩と電話をする以外は孫大好きお爺ちゃんだ。 僕はサッカーや野球をするのが好きで、それで時間を潰すことも非常に多かったが、それでも残業で帰ってこない父親などよりも、余程祖父と話す機会の方が多かったような気がする。 父や母には悪いような気がするが、当時の私は典型的なおじいちゃん子だったのだ。 当時は携帯ゲーム機などもあって友達はDSなんかを使って遊んでいる子もいたが、個人的にはDSなんかよりももっと何故祖父との時間をもっと取らなかったのか。 祖父の経験が、あの人が紡ぐ言葉の数々が、場合によってはいくら積んでも変えの効かない物だと知っていれば。 もし今私が祖父が生きている時代に戻ったならば、人生にたらればは存在しないが、私は祖父に質問したいことが山ほどあっただろう。 そう、一瞬の出来事だった。 昨日の夜まで祖父はいつも通り私に話をしてくれたのだ。 友人の家に最新のゲーム機があると聞いていつも通り、学校から帰って、「行ってきます」と祖父に言って。 思わなかったのだ、考えもしなかった。 祖父が出していたかも知れないサインに気づかなかった。 本当にそれぐらい祖父はいつも通りだったのだ。 友達の家に電話がかかって来て、私に連絡を回してくれ、友達の母から言われて受話器を取った瞬間だった。 母は少し泣いていた。 震える声で何事かと聞くと、母は余裕もなく、こう言った。 「おじいちゃんがね、死んだの」 時が止まった気がした。 右腕の感覚が消失し、受話器がゴトリと下に落ちた。そのことに私が気づいたのは1分少々たってからだ。 その瞬間たしかに私の時は止まっていた。 そして、祖父は死んでいた。
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