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「転生? せっかく死んだのに……やっぱり、輪廻転生ってあるんですね」
「はい。保険を使わず、私のようにこの世界に残り続けることもできますけどね。ただ、今は人員オーバーで天国職の求人は行ってないもので」
「じゃあその保険、使うしかないじゃないですか」
「いえ、転生するほかに魂の消滅という道もあります。消滅するには一年間地獄の業火で焼かれる必要がありますが」
「転生保険、利用します」
そう答えると、山田さんは「来世は自殺したい人生じゃないかもしれないですしね」とフォローしてくれた。
それと同時に山田さんの持つスマートフォンがチロリンと鳴った。どうやらメールのようだ。
「すみません。三丁目の方で地縛霊が暴れているそうで、応援要請が来てしまいました。すぐ戻りますからちょっとこの辺りに浮遊しててください。転生保険についての詳細はこの冊子をよく読んでおいでくださいね」
そう言うと、山田さんは私に冊子を渡してどこかへと飛んでいってしまった。
夕暮れの空に一人、ぽつりと残される。
しばらくの間、私は茜色に包まれた自分の住む街を見つめていた。でもそれもすぐに飽きたので、空中で胡座をかき転生保険の冊子を眺めた。
もうこの世界に未練などない。
どうせ今何を考えようとも、生まれ変わったら前世の記憶はなくなるのだろう。ならばさっさと転生させてほしかった。
暇すぎて、冊子の内容を五周ほど見返した。
そして六周目、あることに気付く。
冊子の一番下、人の目で見えるか見えないかくらいの小さなフォントサイズで注釈が書かれていた。
〝※自分の意思で死を選んだ『自己都合死』の方は、三ヶ月間転生をお待ちいただきますのでご注意ください。三ヶ月の期間中は魂を鍛え直すため、地獄にて研修を受ける必要がございます〟
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