第二章 花音という女性

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「お待たせ。これでとりあえず揃ったから、ワイン開けて」  ワインを注ぎ、乾杯をする。 「このワインおいしい」 「そう、良かった」  料理はどれもおいしかった。特にビーフシチューの味は最高だった。トロトロの牛肉は隆一の舌を唸らせた。食後はリビングに移りコーヒーを飲みながら会話をする。 「なんで今日、隆ちゃんを呼んだか、わかる?」 「えっ、ビーフシチューを作ったからじゃないの」 「もちろん、そうなんだけど、本当のところは、隆ちゃんがこの部屋に相応しいかどうかを確かめたかったの」 「どういうことだろう。僕のことは信用できなかった?」 「そういうこととは違うのよ。あくまでこの部屋に相応しいかっていうこと」 「わかりにくいね」 「私の感覚の問題だから、隆ちゃんにはわからないと思うし、口ではうまく伝えることはできないわ」 「それで、どうだったの」 「うん、仮免というところかな」 「なるほど。じゃあ、ちゃんと免許が取れるよう頑張るよ」  本当は花音の言った『この部屋に相応しい』ということの意味がよくわかっていなかった。 「じゃあ、僕からひとつだけ質問していい?」 「どうぞ」 「あの書棚の本のことなんだけど」 「ん? 本?」   隆一の目線を花音が追う。 「そう。旅に関する本とか、料理に関する本がたくさんあるのはわかるんだけど、医療に関するものや心理学、物理学の本まであるんだね。あれって、みんな関心があるの?」  さすがに、解剖学の本については触れなかった。 「ああ、あれね。特に意味ないよ。なんとはなしに買ってきたものだから」 「えっ、そうなの…」  なんとはなしに、臨死体験の本や解剖学の本を買うものだろうか。だが、花音の顔を見ると、本当に『なんとはなしに』買ってきたという表情をしているので、それ以上は訊かなかった。  
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