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「お待たせ。これでとりあえず揃ったから、ワイン開けて」
ワインを注ぎ、乾杯をする。
「このワインおいしい」
「そう、良かった」
料理はどれもおいしかった。特にビーフシチューの味は最高だった。トロトロの牛肉は隆一の舌を唸らせた。食後はリビングに移りコーヒーを飲みながら会話をする。
「なんで今日、隆ちゃんを呼んだか、わかる?」
「えっ、ビーフシチューを作ったからじゃないの」
「もちろん、そうなんだけど、本当のところは、隆ちゃんがこの部屋に相応しいかどうかを確かめたかったの」
「どういうことだろう。僕のことは信用できなかった?」
「そういうこととは違うのよ。あくまでこの部屋に相応しいかっていうこと」
「わかりにくいね」
「私の感覚の問題だから、隆ちゃんにはわからないと思うし、口ではうまく伝えることはできないわ」
「それで、どうだったの」
「うん、仮免というところかな」
「なるほど。じゃあ、ちゃんと免許が取れるよう頑張るよ」
本当は花音の言った『この部屋に相応しい』ということの意味がよくわかっていなかった。
「じゃあ、僕からひとつだけ質問していい?」
「どうぞ」
「あの書棚の本のことなんだけど」
「ん? 本?」
隆一の目線を花音が追う。
「そう。旅に関する本とか、料理に関する本がたくさんあるのはわかるんだけど、医療に関するものや心理学、物理学の本まであるんだね。あれって、みんな関心があるの?」
さすがに、解剖学の本については触れなかった。
「ああ、あれね。特に意味ないよ。なんとはなしに買ってきたものだから」
「えっ、そうなの…」
なんとはなしに、臨死体験の本や解剖学の本を買うものだろうか。だが、花音の顔を見ると、本当に『なんとはなしに』買ってきたという表情をしているので、それ以上は訊かなかった。
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