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「じゃあ、僕から。花音さんは先ほどの旅行会社で働いているんですか?」
「いえ、実は私、フリーのツアーコンダクターをしていまして。今日はあるツアーの打ち合わせがあったんです」
「へー、そうだったんですか」
社員ならわかるが、フリーという点がちょっと意外だった。そういう独立性が高い女性には見えなかったからだ。
「そうは見えないでしょう」
こちらの思いを見透かされたようだ。
「いえ、そんなことはありません。でも、フリーという点はちょっと意外だったかな」
「そうかあ、やっぱりそうですよね。私って頼りなく見えるみたい」
「スナックでは意思が強そうに見えたけど…」
「ああ、それはマスターに隙を見せるなと言われているからです」
店で愛想がないように見えたのは、意識してそうしていたと初めて知る。
「そうだったんですね。そもそもなかなか会えないし、声をかけてもほとんど会話をしてくれないし。マスターに訊いても何も教えてくれないし」
「それもマスターの戦略なんです。敢えて謎多き女になれというのが口癖なんです。そのほうがお客様は何度も来てくれるって…」
「なるほどなあ。僕だけじゃなく、みんなすっかりマスターの戦略にはまっていたわけですね」
「すみません」
「花音さんが謝ることじゃないですよ。店での花音さんを見ていると、僕のことなんかまったく眼中にないように思ってたから、今日花音さんのほうから声をかけていただいて驚いているんです」
「私、高山さんが初めてお店にいらっしゃった時から、ずっと気になっていたんです。だから、マスターにお願いして高山さんの情報を教えてもらっていたんです。実は、今日お会いできたのも偶然ではないんです」
「えっ、どういうことですか?」
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