第二章 花音という女性

2/5
前へ
/41ページ
次へ
 これまでも、花音の住むマンションの前までは送って行ったことがあるが、部屋へあがったことはない。隆一が部屋にあがるのを、花音がどことなく嫌がっている雰囲気があったため、何も言わずに帰っていた。一方、花音が隆一の部屋に来たことは何度かあった。 「あれ、隆ちゃん、ウチに来たことなかったっけ?」 「誰かと間違えてるんじゃないの」  嫌な気分だった。あまりに自然な言い方だったのが余計に気になるし、実際に知らぬ男が花音の部屋に入っていく様子が目に浮かび憂鬱になる。 「ごめんなさい。ただの私の勘違いだから、そんなに怒らないで」 「わかったよ」  納得していないが、納得したことにしておく。 「今日は花音が隆ちゃんのために、隆ちゃんの大好きなビーフシチューを作るから来て」   花音は、その派手な見た目からは想像がつかない料理上手だった。隆一の部屋に来た時は必ずなにかしら作ってくれた。そのどの料理も美味しかった。 花音の好きなワインを買ってマンションへ行く。初めてあがる花音の部屋を想像して見る。いかにも女の子の部屋らしく可愛らしく飾った部屋か、逆にモノトーンでまとめたシックな部屋かのどちらかであるような気がしていた。入口で部屋番号を押す。 「はい」 「隆一です」 「どうぞ、入って」  機嫌は悪くなさそうだ。自動扉が目の前で音もなく割れた。こじんまりとしたエントランスの奥にあったエレベータで五階まであがる。角部屋の501号室の前に立つ。自分の恰好を今一度チェックしてからドアホーンを押す。 「は~い」  花音の声がドア越しに聞こえた。しばらくすると、ドアが開き、水玉スリム模様のエプロンを身に着けた花音が現れた。
/41ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加