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「いらっしゃい」
「おじゃまします」
花音の後について、リビングへ入る。その瞬間、自分の想像が間違っていたことに気づかされる。落ち着いた色合いの北欧スタイルの、おしゃれな大人女子の部屋だった。
白い空間に明るい色の家具、パステル調のポイントカラーを取り交ぜたおしゃれな北欧インテリア。ラグには幾何学模様が取り入れられているが、ベージュを基調とした色合いなので、奇抜な感じというよりは、落ち着いた雰囲気になっている。クッションカバーもすべて柄や色合いが異なっているが、淡い色調の空間に少しずつ個性を出している感じ。さらに、ミニ机の前に置かれた、からし色の椅子が絶妙なアクセントになっていた。
二人用のダイニングテーブルには、すでにいくつかの料理が置かれているのが見える。
「いい部屋だね。センスがいい」
「ありがとう」
「あっ、これワイン」
「嬉しい」
ワインを受け取ってキッチンへ向かう花音。二人用のダイニングテーブルに置かれていたのは、おつまみと思われる類の料理だった。
「すぐに、用意できるからソファーに座って待ってて」
キッチンから声がする。
「わかった」
隆一は改めて部屋を見渡した。壁一面に書棚がある。隆一は自分が本が好きなこともあり、他人の家に行った時は無意識に書棚の本を見てしまう。本を見ることで、その人がどんなことに関心を持っているかが端的にわかるからである。花音の部屋の書棚を見て、また隆一は花音のことがわからなくなった。
ツアーコンダクターをしているので、旅に関する本が多いのはわかるし、料理好きなので料理に関する本があるのもわかる。また、この部屋のセンスの良さからデザインに興味があるとわかるので、多くのデザイン関連本があるのも納得だ。
しかし、心理学や催眠療法、臨死体験といった医療関連の本も多く見られる。中には解剖学の本まであった。さらには、生物学、植物学に関する本、物理学や宇宙に関する本まである。単に好奇心が強いということなのかもしれないが、花音の思考回路が理解できなくなった。不吉な気配が鎌首をもたげ灰色の影を落とす。嫌な空気を追い払うように、気持ちを切り替える。
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