一つ目のお話 イヌ

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「暑いなぁ…」 僕が周りに誰もいないのにそんなことを口にするぐらいに暑かった。 ポケットから出した携帯多機能板には今の温度を32度と示していた。 なるほど暑いわけだ。世界の終わりが簡単に訪れそうな温度である。 「あいつも暑いと感じるのかなぁ…」 あいつとは僕が最近見つけた、絶滅したはずであろう種、イヌだ。 正確にはシバイヌというらしい。携帯多機能板はそう言っていた。 もっと正確に言うなら、シバイヌの幽霊だ。これは僕のただの憶測だ。 ただあっていないと僕は少し困る。人間以外の動物は絶滅しているはずだからだ。 それに加えてあのシバイヌに僕は触れることが出来ず、僕の右手があのシバイヌの胴体に貫通したこともある。 幽霊じゃなければなんなんのだ。大昔にホログラムという技術もあったと言うが、もう古すぎて使う意味がないので除外できる。だから幽霊出ないと、あれは何になるかと考えると、吐き気がする。 だが、一見するとグロテスクなあれは、よく見ると可愛らしく吐き気も消える。 漆黒を映すあの目はクリッとしてて可愛い。 ボサッとしたあの毛は、変わった色で可愛らしい。 細かいところを見れば見るほど可愛らしい。 神は細部に宿ると言うが、そうならば神は、 きっと可愛らしい幼子のような姿なのだろう。 普通の人ならあれを見れば狂ったように踊り、全裸で街を一輪車で駆け回り、自動販売機に激突して「あぁぁん!おしくらまんじゅう!」と叫び、警備ロボットの世話になるだろう。 まあそれは僕のことなのだが。 …思い出すと久し振りに会いたくなってきた。 あいつのところに行って見るか、と下校中の制服を着た僕は次の分かれ道を右に曲がった。久しぶりに行こう。 あいつが暮らす、廃墟になっていた古臭い一軒家に。
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