名は体を表さない 佐倉優花

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起きたときは朝だった。寒いなあと思いながら布団の中でスマホをつけると、アプリから通知が来ていた。 それを見て、「ああ、別れたんだった」と思い出す。 『優花さんにいいね!が届いたよ』 という通知を押せば、30人からのいいねの数々。現実世界なら30人もの男から言い寄られれば心も踊るのもだが、これは出会うためのアプリで、男たちは数を押して勝負をかけているんだとわかっているから、なおのこと冷めてしまう。 起動すると男たちの写真とプロフィールがざっと並んでいた。寝ぼけた頭でそれを処理する。写真から気に入らない人はスキップして、いいなと直感で思った人だけに、いいね!を返す。 『マッチングしました!メッセージを送ろう』 朝からテンション高めのアプリにもう辟易した。 みんな朝早くから起きているのだろうか、30人の男性を選別し終わったころには、5人からメッセージが来ていた。タップしてそれを見ようとすると、 『メッセージを読むには認証が必要だよ!』 の文字。よく見てみると、顔写真付きの免許証や証明書を送らねばならないらしい。 「なんじゃこりゃ…」 個人情報搾取されまくりのこのアプリに不信感を抱く。 でも、恋活アプリとしては安全で有名なものを選んだつもりだし、おそらくどのアプリでも同じような認証を求めてくるのだろう。 ま、いっか…とつぶやいて、重たい体を起こした。 ベッドの足元に置いていたカバンをあさり、財布を取り出す。 免許証を取り出して、写真を撮った。それをアプリを通して送る。 『認証には数分~数時間必要です。少々お待ちください』 と書かれた画面を見た1分後には 『認証が終了しました!メッセージをお楽しみください』 と通知がきた。 「はやいな…」 アプリの管理者の人は24時間不眠なのだろうか、とブラックな部分に気を遣いつつ、メッセージを開いた。 『はじめまして!マッチングありがとうございます!』 『おはよう!よろしくね!』 『おはよう!何してるの?』 『可愛い顔だなって思っていいね!しました!』 『はじめまして』 5人のメッセージは人それぞれだった。これだけで人間性が出てしまうなと思う。とりあえず時間もなかったので全員に 『おはようございます。こちらこそありがとうございます。よろしくお願いします』 と事務的な返事を送って、アプリを閉じた。
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