名は体を表さない 佐倉優花

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名は体を表さない 佐倉優花

私に足りないものは、優しさと、思いやりの心と、謙虚さと、丁寧さと、大人っぽさだなと、優花は思った。 25歳、社会人3年目。このくらいになると仕事が楽しくなってくるよ、と新人の時に先輩に言われたのを思い出す。たしかに、それは間違いではなかったなと思う。 時間はすでに深夜1時。優花はついさっき、6年間付き合っていた彼氏と別れたところだった。大学生の時から付き合っていた彼は、社会人になり他県に就職していた。お互い仕事が忙しかったし、遠距離で数か月会えないなんてこともざらだった。 だから…なんて言い訳したくはないが、優花は考えた。「本当にこれでいいんだろうか」と。 彼氏だった勇也にそれを打ち明け、「じゃあ、別れようか」となったのが5分前。 女は切り替えが早いという。優花はそのままの勢いで、いくつかのアプリをダウンロードした。SNSでよく見る「恋活」アプリ。 SNSと連携すると、すぐに会員登録ができた。 「プロフィールを入力すると、男性からのいいね!がたくさんくるよ」 アプリからの文面に、少し心を躍らせつつ、優花は入力する。 『福岡で公務員してます。25歳です。初めてアプリをするので、なだなれませんが、よろしくお願いします!』 がっつきすぎない程度に、おしとやかに見えるように文章を考えた。 プロフィール写真を登録しなくてはいけないので、以前勇也に送った自撮りをアイコンにする。その時カメラの奥に向かっていた相手は勇也だったのに、今からはそれを不特定多数の男の前に晒すんだと思うと、勇也に最後に言われた言葉が頭をよぎった。 その他にも、出身地や年収、性格や趣味をいくつか登録し 「こんなもんかな」 と、決定ボタンを押す。 そのまま机にスマホを置いて、布団にもぐりこんだ。 思えばこの時は、自棄になっていたんだと、思う。
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