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高すぎる訳でもないが決して低くもない木の上から、軽やかに降り立つ人影があった。
人間技とは思えぬ所業にも渚姉は特に驚く様子を見せない。
「見て見てゆぅくん! 人が馬鹿みたいに愚直な恋してる様って見ててちょー滑稽でウケるよ!」
「ナギナギ、いくら何でも一つの文章に悪口雑言詰め込み過ぎやわ」
まだ若く見えるがしかし、賽の河原に住まうには疑問を持つくらいの青年だった。
帽子に隠れて顔はうかがえないが、呆れたように微苦笑を浮かべるその雰囲気はそれだけで好感が持てる。
「えへへ、面白かったから」
「餓鬼にちょっかい出すんは感心せえへんで」
「だって・・・」
「だってやあらへんわ」
深く被ったキャスケット帽を少しずらせばそこから覗く顔は、何よりその鋭い瞳が印象的だった。
「閻魔大王の使いたる自覚は持っとき」
「ふぅん、ゆぅくんは持ってるの?」
常人であれば怯みそうなその視線に、渚姉は余裕のある笑みで答えた。
「閻魔兄さんの使いたる自覚ってやつ」
その愛らしい笑みを前に、青年はあっさりと破顔した。
「ナギナギはイケズやのお」
そんなもん、もっとる訳ないわ。
そう一言呟き、青年は枯れ木にもたれかかった。
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