伍  愛すれど、死人故

28/45
前へ
/260ページ
次へ
 石を積む。歩く。石を積む。歩く。石を積む。  それを繰り返すばかりの、  ただ不毛な、三年だった。  賽の河原に堕ちる子どもは、大抵『くらやみ』を落ちる段階で半分廃人となる。  たまに現れる話せる相手も、自分の死に気を取られ一部の余裕さえない。  石を積んでは金棒に殴られ、  話しかけては悪口雑言の限りを尽くされる。  地獄。  自分を不幸と嘆くほど、悲劇のヒロイン気質な人間では、ケイはなかったけれども。  何より、  ケイは知らなかった。  望めるほどに、幸せと言う物を。  求めるほどに、愛と言う物を。  知らなかった。  汐凪渚は、恩人と礼を尽くすには向かない人間だったし、思えば、  今、思えば、  今でこそ、思えば、  私は随分、不遇な環境にいたらしい。  ケイはそんなことを思った。
/260ページ

最初のコメントを投稿しよう!

43人が本棚に入れています
本棚に追加