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東鶴見(ひがしつるみ)高校に入学して二度目の春。
体育館で始業式を終えた俺は、渡り廊下を歩いていた。
目の前を桜の花びらが横切る。優雅にくるくると回転しながら、コンクリートの上にふわりと着地した。
命の散り際さえ美しい桜を見て、ほろ苦い記憶が蘇る。俺は慌てて視線を遠くにやって、灰色の思い出を心にしまった。
少し離れたところを新入生たちが楽しそうに談笑しながら歩いている。講堂でガイダンスでもあったのだろうか。これからの高校生活に期待しているのが、彼らの表情を見るとよくわかる。
別に羨ましいとは思わない。一人にはもう慣れた。負け猫の俺は遠くから青春を眺めているのがお似合いだ。
渡り廊下を抜けて校舎を歩く。階段を上って新しいクラス、二年三組の教室に入った。
黒板には「進級おめでとう」という文字とともに、出席番号の順番に割り振られた座席表が書かれている。俺の番号は二十五番。窓側から二列目の一番前だ。
着席すると、後ろの席の女子が声をかけてきた。
「よろしくね。名前、なんていうの?」
「俺は猫村太一(ねこむらたいち)。よろしく」
「私は浜田由里(はまだゆり)。猫村くんか。可愛い名前だね」
初対面の人によく言われる定型句だった。たぶん、猫という単語が含まれているせいだ。
猫なのは名前だけではない。俺の髪は細くて柔らかい猫毛で、背も丸まっていて猫背ときている。小学生の頃は、名前と容姿をセットでよくからかわれた。
そういえば、うちのクラスにもう一人だけ猫毛で猫背の男子がいるが、彼の名前は鵜飼(うかい)だ。去年同じクラスだったが、さっき名簿を確認したところ、今年も同じクラスらしい。名は体を表すという言葉を真っ向から否定する好例だ。
「猫村くん。先生が来るまで雑談しよ?」
特定の誰かと仲良くするつもりはないが、積極的に敵を作るのは得策ではない。俺は浜田の提案を快諾した。
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