S博士の観察記

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S博士の観察記

 高名な海洋生物学者であるS博士は、魚好きが高じて、どうしたら魚と心を通わせる事ができるかと常々考えていた。  多種多様な生物が暮らす母なる海。その生態は自分たち人間とはあまりにかけ離れている。  分からないからこそ生まれる探究心。  S博士は風呂に浸かっているときも、トイレにこもっているときも、好物の焼き魚の塩加減に文句を言っているときも魚の事を考えている。  そんなS博士、近頃ご執心の魚がいる。 「おう、今日も来たな」  いつもは厳しい顔をしているS博士も形無し。  初孫を迎えるかの如き好々爺然として、ボートのへりから落ちてしまうんじゃないかと周囲が心配するくらい身を乗り出して顔を出す。  遠くからでも底を覗けるような澄んだ水の清流に、最近発見された手のひらサイズの美しい魚。  紋様が派手な魚はあまり綺麗な水に住まうと外敵に発見されやすいという危険があるにもかかわらず、ふいとある日突然現れた。  海の天敵に追われ生態を変えたのか、はたまた突然変異か。  S博士ならずとも興味は尽きず、この興奮ぶりも致し方ないところである。
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