第一章不在の証明

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未雨が出かけてから起きた理は、冷蔵庫にあった、ほぐしたグレープフルーツをソーダ水に入れて飲んだ。グレープフルーツをむいて食べやすくほぐして冷蔵庫に常備するのは、未雨の癖だった。チーズと、ハムと、グレープフルーツを挟んだりする。変わってるし、凝った食べかたをすると、理は思っていた。 愛してるのは、私の身体。あなたを通して私を感じるの。 そう言われてる気がして、体を合わせている時も寝ぼけた朝も、実感が湧かなかった。二人は確実に愛し合っていた。客観的に見て、完璧なカップルだったのだが、何かが欠けていた。理は、それを埋めるようにいつも未雨を触った。 私にとっての夜は…ベッドしかないのか、と美雨は思った。 理が家に来てからというもの、ベッドしか夜をイメージできないでいた。 今日の夜は、蓮とクラブへ行く予定だった。蓮の好きなアーティストがDJで出るらしい。美雨は、夜を別のものに置き換えてくれるなら、と思った。 美雨はそこまでクラブ遊びが好きじゃなかったが、たまには夜遊びもいいかと思った。 美雨にとっての家は、理が来てからというものの、ベッドにしかなり得ないものになっていた。帰りたくない訳ではない。飽きたのでもないだろう。ただなんとなく帰りたくなかった。理が東京に来て、さほど経ったわけではないが。 美雨は授業の終わり、真っ直ぐに蓮と落ち合った。渋谷で。     
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