第二章イン・ザ・クラブ

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蓮は大きな声で言った。友人達と、美雨はグラスをあげて、ぐいっと飲み干してライムをかじった。美雨は酔っ払いたい気分だった。音楽も、お酒もいい具合に美雨を酔わせてくれた。美雨は、甘めのカクテルが飲みたくなった。当時、透がよく作っていた、ベイリーズというアイリッシュ・クリームのリキュールとミルクをシェイクしたショートカクテル。当時、透のバーでホール係をバイトでしていた美雨に、味見だけね、知らないと仕事にならないから、と、手の甲に少しのせて味見していた、あのカクテル。20歳になって初めてベイリーズミルクのショートカクテルを飲んだ時には、もう透とは別れていた。東京の美大進学を機に、透とは別れたのだった。美雨にとっては、初恋の相手が透だったのだ。懐かしく、甘ったるい思い出の味だった。 わりと大きなクラブだが、流石にベイリーズは置いていなかったので、美雨はカルーアというコーヒーリキュールでショートカクテルを、タトゥーの入ったマッチョなお兄さんに作ってもらった。 蓮は、ガルフストリームというカクテルを飲んで、上機嫌な様子だった。ガルフストリームは、カルーアミルクのカクテルとは対照的な味のカクテルだ。美雨と蓮は交換して飲んだが、美雨はきついアルコールに、少しむせてしまった。 蓮は友人や美雨と耳うちしたり、そして笑ったり、音楽に乗ったりしていた。この時間を楽しんでいるように美雨には見えた。羨ましいくらいだった。なんとなく、理が恋しくなった。あのベットだけの部屋が、無性に愛おしく思えた。 朝方五時くらいになり、クラブはまだまだ続きそうな雰囲気だったが、美雨と蓮は帰る事にした。めちゃくちゃにタバコを吸って、お酒を飲んで、音楽を浴びて、蓮は上機嫌だった。美雨も、それなりに楽しめた。蓮の友人達が、楽しませてくれた。坂崎透。その名前を、改めて思い出した。
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