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なんだか愛されていないような、そんな感覚が美雨を襲っていた。たしかに、体は繋がっていても、心が離れている、そんな気がしていた。前から、寂しそうな感情をあらわにする理に美雨は関心がなかったかもしれない。自分を愛すること、それだけが理の好きなところだったのかもしれない。お互い、好きなアートやデザインの話をしたことはない。お互い作っているものやデザインの方向性が違うことは明らかだったし、思い出しても、何の話をしていたのだろう、と思う時がある。理の近くにいる美人の話、友人達の近況など。そんな話しかしてこなかったのだろうか。美雨はそんなことを思って、12月29日の年末のせわしない札幌行きの飛行機に乗っていた。
札幌は雪が降っていた。しんしんと降り積もる雪は、美雨の少し寂しいような気持ちを懐かしさで温めてくれていた。昔から親しんだ北海道の冬の寒さが、東京の空っ風が強い冬よりも、ありがたくおもえるのだった。
12月30日は、友人達と会うことになっていた。すすきので久しぶりに飲むことになった。すすきのなんて、ものすごく久しぶりだと思った。理は、忙しいようで、会えるのかは分からなかった。
「おかえり。札幌は寒いでしょう?東京に比べたら。」母が家で出迎えてくれて、美雨は一年ぶりの帰郷を嬉しく思った。やはり、きてよかった。
「寒いけど、札幌の寒さ、好きだな。やっぱり雪降るのはいいよね。」
「そう。あんたも北海道帰ってきたらいいのに。」母は娘二人が家を出て自立していることを、少し寂しく思っているのかもしれなかった。
「そうだね、まあ仕事があればだけど。」
「結婚しないの、理くんと。付き合って長いでしょう。」
「うーん、わからない。」と美雨は自分でも本当にわからないのだから、と思っていた。理からプロポーズの言葉まだなかった。自分から言いだすのは、打算的すぎるように感じられた。
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