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🦇🐒🐈
セキュリティだと?ホテルがセキュリティ?このホテルには漏えいしてはならない機密でもあるのか?いや、あるのかもしれん。俺は、住所も名前も嘘を書き、電話番号は自分の携帯の電話番号を書くことにする。ここに来たのは、あくまでも俺とアンドレの秘密のドライブなのだからな。
受付けスタッフの後に付いて行く。エントランス右手の壁沿いのやや広い階段を上がる。マホガニーの階段だ。中二階の踊り場の正面の壁には贋物のモネの風景画が掛けられてある。更に、壁伝いに、階段を左方向に曲がる。
二階に着いた。右方向に客室が薄暗い通路に沿って左右に並んでいる。なぜか、昔若い頃に棲んでいた横浜のワンルームマンションの通路に似ている。一番奥の部屋に案内されるのか…。
「お客様様、この部屋でございます」
部屋に着いた。窓には分厚いスズラン柄のシャンパンゴールドのカーテンが掛けられてある。受付スタッフは手際よくカーテンと窓を開ける。冬とはいえ、やわらかな日差しがまぶしい。南仏風のセピア色の壁紙が鮮やかに映えている。暖炉横の壁際には、色とりどりの夥しい数の造花の薔薇が、まるでポール・セザンヌの絵にあるような青い花瓶に活けてある。窓の外から、カーテンを揺らし、清々しいそよ風が過ってくる。まるで湖の底から一瞬にして水面に浮き上がったような感じだ。 まあ、好しとしょう。この湖の水面でいっときの間、俺はアンドレを救済するための策を練るんだ。
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