老涎の戯れ

二重構造ホテル

「あら、お客様、いらっしゃいませ。チェックインは十三時からとなっています。現在のところ、ご予約なしで宿泊可能となっておりますが…」
「えーっと、宿泊ではないんだが、コーヒーだけでも構わんかな？」
「ええ、構いませんとも。あの喫茶コーナーをご利用ください。他にもレストラン、それに温泉もご利用出来ます。このホテルにはデェイユースプランもありますが、タイムユースプランも用意させて頂いております。本日は入浴時間を含め三時間までの客室利用が可能となっております。お部屋では仮眠はもちろん、有線放送の音楽やテレビの視聴が可能です。景色を眺めながらのご休憩もいかがでしょうか？」
　やはり温泉があるのか。口火を切るには部屋の中がよさそうだ。どうせなら、相手の懐に入った方がやりやすいかもしれない。
「タイムユースプランとやらでお願いしょうか。コーヒーも付けて貰えますかな」
「それでしたら消費税込みで三千円となります。お支払いは前払いで現金でお願いします。現金以外は使用できません。ここにサインと連絡先の電話番号もご記入願います」
　今どき現金だけだとは、なんていうホテルだ。時代遅れも甚だしい。
「宿泊しないのに、なぜ記帳が必要なのかな？」
「理不尽かもれませんが、あくまでもセキュリティですので。言ってみれば、会社なんかで行われている来訪者の入館記録のようなものです。お客様にもいろんな方がおられますので…」