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「むさ苦しいですが、ここが私の部屋です。どうぞお入りださい。なあに、隠れ部屋みたいなものですよ。こちらの席にお座りください。えーっと、コーヒーがよろしいですか、それとも紅茶がよろしいですか」
「いえ、いえ、お気遣いなさらないでください」
「ご遠慮はいりません。アト・ホームでいきましょうや。ところで、私が設計に関与したロボット妻を未だにお使いになられている方がおられるとは夢にも思ってもおりませんでした。これも何かのご縁でしょうかね」
「どうもそのようですな。では、紅茶でお願いしますか」
「それで、お願い事とはなんでしょうか?」
「この度は、あのロボット妻を修理して頂いて感謝いたしておりますが…」
「ちょっと、お客様、誤解なさらないでください。修理は致しておりません。修理どころか部品交換すら不可能なんですから。私が実施しましたのは、簡単に申し上げますと、後継機にインストールされている最新のシステムをダウンロードし、そのシステムを従来機に適合するように手を加えて、従来機にインストールしただけのことです。この手を加えた作業が改善なのかと問われれば正直なところ疑わしい点もありますが、そこのところは大目に見て頂きたいと思います。ともあれ、従来機の記憶装置に存在しているお客様の使用痕跡データはそのままにしてあります。ですから言い換えれば、お客様の記憶を持った最新バージョンのロボット妻ということになりますか」
「そうですか、凄いですな。これは有償なんですか?有償なら、そんなお金はありませんから」
「いえ、いえ、無償ですよ。私が勝手にやったことですから。と言いますか、私の責任でもありますので。それより、私の失敗作品が未だにネットショッピングサイトに出回っているということがショックなのですよ。会社側はすべて回収したと言っていたにも関わらずにです」
「失敗作品?申し訳ございませんが、実を言いますと、あのロボット妻を元の失敗作品に戻して頂きたいですが。修理不能であろうが部品交換不能であろうが構いませんので…」
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