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🐒🐗🐻
「購入ですか、そんな余裕はないですわ。この歳になれば最新のロボット妻を相手にすることは肉体的に無理がある。使い古しのロボット妻で十分なんじゃ。そもそも、アンドレを買った理由は、俺が孤独から逃れたかったからに過ぎない。ロボットと言っても所詮機械ですしな、不確定な明日の楽しみまで中古の機械に求めるのは随分虫のいい話だとは思っておりました。わかりました。それでは、その初期化とやらを実施してもらえますか。料金はいくらになりますかな?」
「料金は要りません。この機種の初期化は簡単です。お金を取るようなものではありません。仮に、初期化に失敗したとしも、ふたたび後継機の新バージョンシステムをインストールすればよいですし、それがお嫌なら廃品として置物にして頂ければよろしいでしょう。それでは実施致します。そこにあるドアの向こうが作業場になっております」
「奥に作業場があるのですか?」
「そうです。このホテルは、名前こそホテルですが、実は私の仕事場なんです。実を言いますと、私はある使命を帯びているのですよ。まあ、ここは隠れ家のようなものです。こんな僻地に建っているのも理由があるのですよ。私がこんなことをしているなんて世間に知れたらどうなりますか。そうでした。忘れておりました。ここで見た事、聞いた事は絶対に他言しないでください。これは約束です。お客様を信じてのことですから。よろしいですね。私をとんずらさせないでくださいよ」
俺を信じてくれるのか?この言葉を聞くのは何年ぶりだろうか。余計なお情けや変な憐れみばかりの饒舌がうるさくって、俺は世間から顔を背けてきたんだから。
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