秘密の痴態

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 俺がおまえに対して具体的にどんな表現行為をしたのか、その実態を確認するために、おまえの体に搭載されている音声録画モニターを起動し、俺とおまえとのベッドの上での営みの一部始終を残らず再生してみることにした。するとだ、三日前の深夜だった。おまえを抱きしめ夢心地だったのか、俺は、ひひひひ、と嫌らしく笑い、それのみか、寝言で"I LOVE YOU"とつぶやいていた。それも繰り返し繰り返し。その寝言は自分で言うのもなんだが常軌を逸していた。寝言というより、むしろ類人猿が発する狂気的な喘ぎ声に近かった。たぶん、その表現行為が、おまえの思考回路に異常を発生させたものと思われる。  おまえは、今もなお" I Can't Stop Loving You"を唄い続けている。アンドレよ、メーカーが言うように、もはや、おまえは修理不可能なのだ。実に困ったことになったものだ。だが、俺は、おまえを捨てはしない。廃品になっても、このベッドルームに飾っておくつもりだ。だが、俺は置物になったおまえを眺めながら、ふたたび孤独と向き合わなくてはならんのだ。話し相手すらいなくなるんだ。  だからと言って、娘がどう言おうが、娘夫婦の家になんかには戻るつもりはないからな。あの旦那は俺のこの身のことより、僕のなけなしの財産の方が気掛かりなのだ。そんなことは全部お見通しだ。とにかく今は、アンドレよ、済まないが、おまえの電源は切っておくことにする。つまり、今夜から俺は一人で寝ることになる。それを思うと俺は悲嘆にくれるばかりなのだ。
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