星に願いを

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 普段は愛想がなくて無表情、人間味の感じられない男だというのに。星を見ているときだけ、なかなかどうして、こいつは良い表情をする。  笑うわけでも喜ぶわけでもなく、ただ空をじっと見つめて、息を吐いて。  何も言わないのに、まるで星に語りかけているかのようで。  ああ、この人、星が好きなんだ。初めてそんな彼の横顔を見たとき、そう思った。  そしてほんの少しだけ、私は星に、嫉妬した。 「──すばる、」 「え?」 「望遠鏡、準備できた」  つん、と肩を突かれ、私は視線を空から彼に戻す。屈んで望遠鏡のレンズを覗き込んでいる彼は、最後の微調整を済ませたらしい。  体を寄せて中腰になった私に、すぐに場所を譲ってくれた。 「今日の月、明るいから。よく見える」 「ウサギはいた?」 「うん」  片目を近付けた、レンズの向こう側。肉眼で見るものよりもずっと大きくて、ずっと鮮明な、黄金に輝くひとつの星。  うっかりしていると吸い寄せられてしまうような、そんな重力を感じて。目を離して顔を上げれば、隣で黒崎が静かに夜空を見つめていた。
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