15人が本棚に入れています
本棚に追加
/17ページ
―― 蠢く。
仰々しい漢字が思い浮かび、K恵さんは背筋が一瞬ヒヤリとした。
その感覚が気のせいではなかったと知らされたのは、それから数週間ほど過ぎてからだった。
あれだけ騒がしかったクラスが、驚くほどに静かになった。生徒たちはおしゃべりひとつせず、黙々と授業を受けている。
だが何か違和感があった。生徒たちに、覇気というか生気が感じられないのだ。
(……あれは、なに?)
水を打ったような静寂のなか小テストを解く生徒たちを、教室の後ろから監視していたK恵さんは不可解な現象に気がついた。
テスト用紙に向かう生徒の首元。ミミズ腫れかと思った『それ』は、皮膚の内側を探るように動いている。
ある生徒は手の甲に、ある生徒は二の腕に、紐状に盛り上がった『それ』が蠢いている。
――『ウゴの怪物』
生徒たちが噂していた謎の生物の名前が、K恵さんの脳裏に浮かんだ。
「先生、どうかしたんですか?」
感情の読めない声で尋ねてきた生徒を振り返ると、
「ひっ」
生徒の瞼の内側がピクピクと動き、赤黒い芋虫の様なモノが眼球の端に一瞬姿を見せたかと思うと、こめかみの内側を滑るようにして、消えた。
最初のコメントを投稿しよう!