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慌てて周囲を見回しても、生徒たちの身体に蠢く異物は既に見当たらず、カリカリと聞こえる鉛筆の音だけが、やけに耳についた。
「就活を理由に、そのあと塾のバイトは辞めました。教室にいると息苦しくてたまらなくて。……なんか、突然子どもたちが襲いかかってくるような想像しちゃったり、もしかしてもう私も空気感染しちゃってるんじゃないかとか考えたりして」
不安げな表情で、K恵さんは続ける。
「毎朝、鏡を見て確認するんです。私はまだ、ちゃんと『私』だって」
青白い顔。目の下には隈。
彼女の心を蝕んでいるのは、想像から産み出してしまった『イドの怪物』か。はたまた、人の体内で蠢き全てを支配する『ウゴの怪物』なのか ――
前者であることを、祈るばかりである。
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