15人が本棚に入れています
本棚に追加
なくしもの
その駅では数年前、飛び込み自殺があった。
以来、黄昏時の踏切近くで、首のない男性の幽霊が現れるようになったと噂された。
「事故でバラバラになった身体のうち、最後まで見つからなかった頭を探しているんだって」
学校からの帰り道、件の踏切を渡りながら、若菜は親友の美織に兄から聞いた噂話を聞かせた。
折しも時刻は夕暮れ時。空は紅に染まり、二人の足元の影はまるで生き物のように黒く長く伸びていく。
「そんなの単なる噂でしょ? 私は信じない」
「へぇ、美織って意外と現実主義者な感じ?」
「……そう言うわけじゃないけれど、その話は信じない」
怒ったようにずんずんと歩いていく美織の背中を追いながら、(内心怖がってるくせに、素直じゃないなぁ)と、若菜は苦笑した。
翌日、学校で若菜は保健室にいた。
昨夜から違和感を感じていた右足がどんどん痛みだし、ひきずらないと歩けないほどになってしまったのだ。
「やだ、一体どうしたの?」
ハイソックスを脱いだ右足首を見て、養護教諭の先生が悲鳴をあげた。
右足首の周りに、ぐるりと青黒い痣がついていた。それはまるで、誰かに掴まれた跡のような。
最初のコメントを投稿しよう!