なくしもの

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なくしもの

 その駅では数年前、飛び込み自殺があった。  以来、黄昏時の踏切近くで、首のない男性の幽霊が現れるようになったと噂された。 「事故でバラバラになった身体のうち、最後まで見つからなかった頭を探しているんだって」  学校からの帰り道、(くだん)の踏切を渡りながら、若菜(わかな)は親友の美織(みおり)に兄から聞いた噂話を聞かせた。  折しも時刻は夕暮れ時。空は紅に染まり、二人の足元の影はまるで生き物のように黒く長く伸びていく。 「そんなの単なる噂でしょ? 私は信じない」 「へぇ、美織って意外と現実主義者な感じ?」 「……そう言うわけじゃないけれど、その話は信じない」  怒ったようにずんずんと歩いていく美織の背中を追いながら、(内心怖がってるくせに、素直じゃないなぁ)と、若菜は苦笑した。  翌日、学校で若菜は保健室にいた。  昨夜から違和感を感じていた右足がどんどん痛みだし、ひきずらないと歩けないほどになってしまったのだ。 「やだ、一体どうしたの?」  ハイソックスを脱いだ右足首を見て、養護教諭の先生が悲鳴をあげた。  右足首の周りに、ぐるりと青黒い痣がついていた。それはまるで、誰かに掴まれた跡のような。  
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