幸せでありますように

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幸せでありますように

   それはいきなりスマホに届くのだという。  見知らぬアカウントから送られてくる、正方形の中に白と黒で構成された幾何学模様。大容量の情報を、高速で読み取り可能にした二次元コード。  けれども、それを読み込んでしまうと…… 「それ知ってる。赤色のコードでしょ? うかつに読み込むと、そのままスマホの中に閉じ込められちゃうとかいう都市伝説」 「ちがうよ。そんな怖い話じゃないよ。私が聞いたのは『ラッキー・コード』」 「『ラッキー・コード』?」 「そう! そのコードが送られた人は、イジメも戦争も病気もない、幸せの国への切符を手に入れられるんだって」  怪しい。怪しすぎる。  嬉々として語る萌香には申し訳ないが、そんな話、不信感しか湧きゃしない。  どうせクリックしたら、恐怖映像が現れる趣味の悪いサイトに飛ばされるか、個人情報を抜き取られて犯罪者に利用されるかに決まっている。  そんなある日――― 「届いた! 届いたの! 私にも『ラッキー・コード』が!!」  ハイテンションの萌香が給湯室に現れた。 「ほら! 見て見て! コードの中をよく見ると『幸』って文字が隠れているでしょ? これが『ラッキー・コード』の証拠なの!」  頬を紅潮させながら、萌香がスマホを差し出す。画面に出されたモノトーンのコードは、一見何の変哲もない物に見える。これのどこに『幸』の字が? 目を細めて画面を見つめる。 「……ねぇ萌香、これって」 「ごめんねぇ、私だけ幸せになって。でも大丈夫、いつかきっと貴女にも届くわよ」  その数日後、萌香は「幸せになります」のメッセージだけ残して、会社を辞めマンションも引き払い、姿を消した。  あの日見た、スマホ画面のバーコードに隠された文字。  萌香は『幸』だって言い張っていたけれど、私には『辛』の文字にしか見えなかった。  萌香、貴女がどこかで『幸せ』でありますように。  『辛い』思いをしていませんように。
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