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高く伸びた姿は、頭でっかちな怪物の様だし、何よりあの中心の茶色い部分が怖かった。びっしりと詰まった無数の虫、いや無数の目に見える気がして。
スマホから顔をあげると、リビングの掃き出し窓の向こうにその怪物の姿が見えた。猫の額ほどの狭い庭の小さな花壇に、夫がどこからか貰ってきた向日葵の種を娘と一緒に植えたものが、ろくに世話もしなかったのに気持ち悪いほど育って大輪の黄色い花をつけている。
「夏らしくていいね」
なんて夫と娘は喜んでいるが、私はどうにも落ち着かない。正直、早く枯れてくれればいいとまで思っている。
「見てんじゃないわよ」
リビングに向かって咲いている向日葵へ、ガラス越しに悪態をついてみる。
と、手にしていたスマホがメロディを奏でた。画面にはS原からのメッセージが届いたとの表示が出ている。昨晩薄いベージュのマニキュアを施した指先で、アプリを開く。スーパーのパートでは、ネイルは禁止されている。だからこれは、休みの日の楽しみのひとつだ。
S原は高校の頃の同級生の男だ。半年ほど前に開催された同窓会で久しぶりに再会し、よくある話ではあるけれど、大きな声では言えない関係になった。外回りの営業職のS原とは、こうやって私の仕事休みの水曜の午後に、隠れて逢瀬を繰り返していた。
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