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止めてあげる
しゃっくりが止まらない。
沈黙が続く部屋で、俺が発する間抜けな音だけが響き、気まずくなる。
彼女の部屋に、別れ話をしに来た。
4年半付き合ったが、生涯を共にしたいほどの熱も沸かず、これ以上一緒にいてもお互いの為によくないと結論を出した。
でも、彼女は首を縦に振らない。ただ沈黙を守っている。
「水、もらうぞ」
どうにもこうにも格好がつかない。冷たい水でも飲んでしゃっくりを止めようとしたが、重苦しい空気に乾いた喉が湿るだけで、横隔膜の痙攣は収まらない。
「……イイ方法、知ってるよ」
ようやく彼女が口を開いた。
メモ用紙とペンを持ちだすと、何やら丸やら四角やらの図形とミミズの這ったような横文字を書きこんでいく。
「この紙をコップの底に敷いてね、手を使わずに水を飲むの。しゃっくりが止まるおまじないだよ」
差し出された紙を受け取ったところで、テーブルの上のスマホが震えた。届いたメッセージは、近くで飲んでいる友達からだった。
「悪ィ。友達待たせてっから、今日はもう行くわ」
メモをポケットにねじ込むと、足早に玄関に向かった。
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