彼女と私

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私はほとんど買い物に出かけるぐらいの感覚であの街を出た。入寮日、親元を離れて泣いている子を何人か見かけた。別に馬鹿にはしないけれど、よく分からないな、と思った。 寮に入ると、私の名前を聞いて、からかう子はいなかった。なんせみんな全国から集まってきているのだ。北は北海道、南は沖縄。私は大阪、と一括りにされた。 誰も山田千里のことを知らなかった。 驚いた。 それはそれでなんか寂しいよなあ、と湿ったブラウスをパンパン叩いて伸ばす。水分が手のひらに浸みてひんやりする。初夏の風が気持ちいい。 現在は五月、ゴールデンウィーク。ふだん屋上には寮生たち各々の洗濯ロープが張られ、真っ白な丸襟ブラウスがずらりと並んでいる。けれど今日はそれもまばらだった。みんな帰省しているのだ。残されたのは、部活に勤しむ人たちと、私みたいなふるさとに大した思い入れもない薄情な人間だけだった。 屋上から京都の街を眺める。 寮は東山の麓にあって、屋上からは家々が連なってみえる。この街に来てから、私は見下ろして、その屋根の下の生活一つ一つを思うようになった。 すると揺れるブラウスの向こうから声が聞こえた。
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