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ゴールデンウィーク最終日、河原町駅の改札口は行き交う人々で溢れていた。
「私、椿さんと三日間一緒におれて、ほんまに良かった」
そんな今生の別れみたいに言わないでよと彼女は笑う。今日の夕方には、寮には沢山の人が帰ってくる。私の部屋にも彼女の部屋にもルームメイトが帰ってくるだろう。それからいろんな街の、いろんなお菓子が交換されるに違いない。階も違う、クラスも違う彼女と話す機会なんてそうなくなる。私にとってそれは今生の別れに近かった。
「いってきます」
「いってらっしゃい」
半分の空を持っていった見知らぬ人。お願いですから、受けとめつづける彼女が倒れそうになってしまったら支えてあげてください。折れそうになりながら強く生きてきた小さな世界もちゃんと愛せるよう、新しい世界に触れさせてあげてください。
祈りを捧げると、発車のベルが鳴った。
・
西院を過ぎると、特急電車は地上を滑り始める。やわらかな朝陽が注ぎこまれて一気に車内が明るくなった。車窓から空を見上げる。私は今からあの街へ帰り、大切な人に、新しい世界のことを話すのだ。この空と同じ色をしたお菓子を食べながら。
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